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[ パナスタ物語 ]

第二章

2016年に始まった、新スタジアムでの新たな歴史。
日本一の『ホームスタジアム』を目指した10年。

パナスタ物語 第二章

第3回 完成から10年。パナスタに描く未来。

 そんなふうに、様々な模索を続けてきた中で、パナスタは今年の10月、竣工から丸10年という節目を迎えた。その間、どのくらいの人がパナスタを知り、足を運び、愛着を持ってくれたのか。推し量ることはできないが、ガンバの近年の入場者数を見る限り、着実にその数は増えていると言っていい。

 事実、23年のリーグ戦平均入場者数はコロナ禍前に大きく近づく23,273人。24年はさらにその数を増やして26,096人に。今年に関しては、現時点で29,806人を数えていると聞く。またリーグ戦の総入場者数も、10月18日に戦ったJ1リーグ第34節・柏レイソル戦で、パナスタ史上初めて年間500,000人を突破。リーグ戦平均入場者数も16年に描いた『28,000人』を初めて上回り、30,000人を達成する可能性も出てきた。

 この数字について、今シーズンから代表取締役社長に就任した水谷尚人は「支えて下ったすべての方のおかげ」だと感謝の意を表しつつ、「我々の目指すところは、満員のパナスタ」だと未来を見据える。

「この数字は、募金でつくるという初めてのスキームで建てられたスタジアムへの皆さんの『想い』が、10年の月日を経た今も色褪せることなく、さらにその輪を広げながらパナスタに息づいている証。それを嬉しく思いますし、ホームゴール裏に集う皆さんの熱量を含めて、紛れもなく日本一のホームスタジアムだと自負しています(水谷)」

 ただし、目指すべきゴールは、まだまだ先だと気を引き締める。

「エンターテイメントを提供する企業が担うべき役割ということを考えても、我々が目指すべきは『満員のパナスタ』です。この10年、集客のところは右肩上がりに伸びていますが『満員』から逆算するとまだまだ追求できることは多いと感じています。また、その実現にはやはりチーム強化や『タイトル』を抜きには語れません。だからこそ、この10年、一度もタイトルを手にしていない事実を真摯に受け止めた上で、チーム強化のところももっとしっかりと計画立てて取り組み、リーグ全体、クラブ全体の価値を高めることを意識しながら、強化を図らなければいけないと思っています。また、それと並行してスタジアムへのアクセスの改善も取り組んでいきたいことの1つです。パナスタ建設時、いろんな方のご尽力があってこのスタジアムが実現できたこと、当時の最善策を講じていただいたことは重々承知しています。ですが、完成から10年を数え、スタジアムの発展、成長を考えた時にアクセスの改善をいかに図れるかは、指定管理者としての立場で考えても、次の10年に向けた大きなキーになってきます。それを解決できれば、たとえば、スタジアム内にカフェを作るとか、商業施設を誘致することも可能になりますし、スタジアム周辺のスペースに飲食店を出せるようになるかもしれません。そうなれば、パナスタが日常的に人で賑わう場所になることも夢ではないと思います。金森さんがおっしゃっていた『多くの人々の心を一つにまとめ、心意気を作る大きな役割を果たす存在に』なることにもまた一歩、近づくことでしょう。もちろん、アクセスについては行政や地域とも連携しなければいけないところですが、そこの改善はガンバとしましても取り組んでいきたいと思っています(水谷)」

 その言葉の裏には、パナスタ完成時に描いた『事業規模100億』という数字を、ゆくゆくは更に引き上げたいという野望もある。

「昨今、クラブワールドカップで頂点に立つことを目指しているヨーロッパの強豪チームの事業規模は、高いところだと1,000億円を超え、参加する欧米のチームのそれは少なくとも200億以上で運営されていると考えても、100億に甘んじていてはいけないというのが私の考えです。運用が始まった16年から10年もの月日が経ったと考えても、その数字が同じでいいとも思わない。もちろん、日本のJクラブで100億を超える事業規模で運営されているのは浦和レッズさんくらいで、それが簡単な数字ではないことはわかっています。ですが、ガンバがこの先、再びJクラブの頂点に立って、アジアを制し、クラブワールドカップで世界の強豪チームと対等に渡り合う未来を作り出すには、そこを目指すべきだと思っています。というより、このパナスタという素晴らしいスタジアムを存分に活用できれば、それも決して絵空事ではありません。だからこそ『今』を預かる我々は、『満員のパナスタ』から逆算した取り組みに真摯に向き合いながら、パナスタを成長させ続けなければいけないと思っています(水谷)」

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2025シーズンは、パナスタ史上初めて年間の来場者が500,000人を突破。リーグ戦平均入場者数も16年に描いた『28,000人』を初めて上回った

 『パナスタの成長』を望むのは、建設に関わった人たちをはじめ、この10年、パナスタに寄り添いながら成長を支えてくれた人たち、すべての思いでもある。

 パナスタの建設にあたり「スタジアムのキャパシティ(収容人数)によってクラブの大きさが決まる」との思いから『40,000人収容』を強く推した初代Jリーグチェアマン・川淵三郎は、過去に思いを馳せつつ、未来に目を向ける。

「実は、僕はJリーグ発足に際してガンバが以前に利用していた万博記念競技場を『ぜひ、ガンバのホームスタジアムとして使わせていただきたい』と管理・運営をされている大阪府にお願いにあがったことがあったんです。そしたらスタジアムの地下にある浄水場の工事に莫大な費用と時間がかかるから無理だと断られてしまった。繰り返し足を運んで、最後は了解していただいたんですけどね。そういう経緯があるもんだから、92年のガンバの最初の公式戦は自分でチケットを買って、万博記念競技場に足を運び、まだ芝生席だったゴール裏に新聞紙を敷いて観戦したんです。そしたら、観ているうちにズルズル、ズルズルと下に滑り落ちていくんですよ(笑)。その経験が、ゴール裏に座席を作る必要性を唱えることにも繋がったんです。ガンバのそんな時代も知っている僕なので、こんなにも素晴らしい、イングランドのプレミアリーグ並みのスタジアムができて感慨ひとしおです。ピッチまでの距離も本当に近くて臨場感を味わえるし、視界を遮らない設計になっているおかげで、どの席に座っても試合の隅々まで楽しむことができる。年々、ここを訪れる人が増えているのもすごく嬉しいです。唯一残念なのは、このスタジアムができてから肝心のガンバが『タイトル』を手にしていないこと。ですから、今のところはこの“箱”に見合ったクラブに成長したな、とは言えないのだけれども、このスタジアムがある限り、ビッグクラブに成長できる可能性があるということだから。いや、可能性というよりは、建設にあたってご尽力くださったいろんな方たちの顔を思い出せばこそ、その姿を示して欲しいと心から願っています。パナスタの完成を機に、日本のサッカースタジアムが新たなフェーズに入った感もある中で、その先頭に立ってくれたガンバには、サッカーの結果でも是非とも先頭に立ち続けるチームになってもらいたい。それが今の僕の願いです(川淵)」

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ピッチまでの距離が近く視界を遮らないような設計で、どの席に座っても試合の隅々まで楽しむことができる

 また、建設当時は建築現場の総括作業所長として指揮を振るい、現在も常にスタジアムの細部に目を行き届かせながら、メンテナンス等を行い、寄り添い続けてくれている竹中工務店の中野達男も、定期的にスタジアムを見てきたからこその視点で、スタジアムの進化に期待を寄せる。

「パナスタは、我々、竹中の知見と技術を最大限に注ぎ込んで完成に至りました。私はこの10年間、ガンバのホームゲームには母が亡くなった1日を除いて常に足を運び、いつ何が起きても対応できる体制をとってきました。試合日以外も定期的にスタジアムに足を運び、メンテナンスを行っています。その度に、この現場に関わったすべての人の想いによって生まれた『絆』は今もスタジアムのあちこちに息づいているのを感じます。それも、運営にあたられるガンバさんを筆頭に、吹田市や芝を管理されている東洋グリーンさんなど、たくさんの方々が大事にこのスタジアムを育ててきたからだと思います。毎年、選手やスタッフ、ここに集うファン・サポーターの皆さんが作り上げてくださる臨場感が大きくなっているように感じるのもすごく嬉しいです。一方、建設に携わった一人としては、10年経っても老朽化がほとんど見られず、ピンピンしていることにも胸を撫で下ろしています。ただ、できるだけ無駄を省いてつくりあげたということは、イコール、進化できる可能性をたくさんに残しているということも意味します。実は、我々は工事中、仲間内でこのスタジアムのことを“すっぴん美人”と呼んでいました。『装飾のない“すっぴん”の状態を美しくつくりあげよう』ということが我々の合言葉だったからです。その“すっぴん美人”ぶりは今も保たれていますが、パナスタがこの先もより多くの方たちに愛され、楽しめる場所であり続けるには、時代に応じた進化も必要だと感じています。パナスタを訪れる方たちがいつも新鮮な気持ちで『ここに来て良かった』『また来たい』と思ってもらえるような、足を運ぶたびに新たな楽しみを見つけられるような『進化型スタジアム』として発展しつつ、そこにガンバの新たな『タイトル』の歴史も加わっていけば、なお嬉しいです(中野)」

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たくさんの方によって育てられ、運営されてきたパナスタは、10年経った今も老朽化がほとんど見られない

 もちろん、その『進化』はガンバとしても目指すところだ。

 この10年、たくさんの方の思いと募金で作られたスタジアムを、ガンバは指定管理者として常に「大切に育てていかなければいけない」という使命のもとで運用してきた。芝の管理はもちろんのこと、いつの時代もスタジアムの隅々まで目を行き届かせながらこまめにメンテナスと清掃に力を入れてきたのも、その思いがあってこそだろう。ただ、クラブとしての発展、成長を目指せばこそ、水谷は「クラブもチームも、そしてスタジアムも、現状維持ではいけない」と語気を強める。

「スタジアムのどこを歩いても、10年も経ったとは思えないような状態を維持できているのは、我々管理者だけではなく、ご来場いただく皆さんにも丁寧に、大切にご利用いただいているから。このスタジアムへの想いを持ち続けてくださっているからだと受け止めています。そういう意味では『募金でスタジアムをつくる』というスキームは単に資金を集めるだけではなく、みなさんの想いを結集させる時間にもなったのだと感じています。ただ、クラブもチームも常に成長、発展を目指しているようにパナスタのことも今以上に、皆さんに愛着を持っていただける空間にしていきたいという思いは常々持っています。パナスタが完成して以降、日本にも京都や広島、長崎等々に新たなサッカースタジアムが続々と誕生し、それぞれにさまざまな工夫や仕掛けをされています。我々もその流れに置いていかれないように時代に応じた進化を意識しながら、ガンバのホームスタジアムとしての魅力を、より大きくしていければと思っています(水谷)」

 たくさんの『想い』を宿す日本で唯一の『募金でつくられたスタジアム』に、『日本一のスタジアム』としての未来を描きながら。

(了)


(文中敬称略)


高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa

パナスタ物語 第二章
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